#132 Parkway Vol.25 No.2 April-June 2010
素朴な道
1県終了、あと3県。四国徳島県の美しく険しい山々を2週間ほど歩くと、海岸線に出て、平坦な道路が続きます。脚力は少しつきましたが、足は更に痛くなったところで、第2の高知県に入りました。旅のこの時点で私の身体的、精神的な状況を一言で表すとしたら、心・体そして周囲への「気づき」です。人との交流の場を作り出すこと、単に存在することそのものに気づくこと。
始める前、この旅に出れば、世界や、自分、過去、そして未来への洞察力が身につくだろうと考えていましたし、望んでもいました。こうした事はあるにはあるのですが、もっと素朴な疑問で頭がいっぱいになることが多いのです。今夜どこで寝る?何を食べる?今日の目的地に着けるだろうか?こうしたことが頭の中を巡る中、普段は無視していたような小さなことに段々と気づくようになります。海岸沿いの草は柔らかいベッドになるだろうな、とか。夕食はバックパックに入れたリンゴとたんぱく質ドリンクでいいや、とか。背中がどんなに痛くても、もう少し頑張ることもできました。自宅の快適なベッドや、食べる物の選択肢が色々あることが突然複雑なものに思えてきます。朝が来るたびに、素朴な疑問が繰り返し現れ、歩き続ける活力になるのです。
高知県に入ると、歩き遍路には多くの課題があります。まず最初に 次の霊場までの75.4 kmという長い距離を歩かなければならないこと! 3日かかるのです。徳島で会った遍路の人たちのほとんどは、この時点で歩くのを終えて、家族や仕事、そして「本当の」生活に戻っていきます。私だけなのは分かっていました。
23番札所から24番札所への道には遍路宿もローソンもほとんどありません。晩夏の暑さで習慣のように立ち寄っていた自動販売機も姿を消しています。息をのむほどに美しい高知の海岸沿いを歩き、吹く風、海の霧、長い道路を受入れるのです。ある夕方、灰色の雲が張り出してきました。台風が近づき、遍路の最大の懸念「雨」がやってきます。遍路の間なんとか雨に会わずに済めばいいと願ってはいたのですが、すぐに新しい素朴な疑問が出てきました。どうやって濡れないようにするか?
天候へ挑み、長い3日間を歩き、遍路さんとの交流も少なくなって、高知からは沢山の閃きと気づきをもらいました。
歩いている間、時間をつぶすのに何をしていたのかと、友人に尋ねられるのですが、素朴になること、そして気づくこと、と、いつも躊躇せず答えています。2番目の県ありがとう。